Adoration (2019)
¥4400

少年と少女は、大空を自由にはばたく鳥たちになれるのか・・・

森の中の精神病院。そこで働く母と二人暮らしのポールは、鳥類を愛する12歳の少年。赤いドレスを着た患者の少女グロリアとの、目と目で通じ合う一瞬を経験し、瞬く間に恋に落ちる。グロリアがポールに打ち明けた話によれば、彼女は病気ではないが、亡き両親の残した遺産目当ての叔父によって病院に監禁されているのだとか。ポールを小さな恋人のように扱う母は、息子がグロリアに近づくことを許さない。ある夜、脱走を決意した二人の前に立ちはだかった婦長を、グロリアが階段から突き落として殺害。幼い二人の逃亡の旅が始まる。目指すは、グロリアにとって唯一幸福な記憶、6000マイルも先にある祖父の家。だが、次第にグロリアのエキセントリックな言動がエスカレート、親切な人々をも裏切りながら逃避行は続く・・・。

監督は、ジャングルの迷宮に我が子の姿を追う神経衰弱ギリギリのエマニュエル・べアールが印象的だった『変態島』(08)のファブリス・ドゥ・ヴェルツ。本作は、衝撃のデビュー作『変態村』(06)、実在の殺人鬼カップル、レイ&マーサを描く『地獄愛』(14)に続くベルギーの闇三部作、最終章となる。

「デジタルはシネマのポエジーを台無しにする」と言い放ち、自身にとってのベストホラーである『悪魔のいけにえ』の、あの粒子の粗いざらついた映像の感触を狙って『地獄愛』は16mmで撮影するなど、とことんフィルム撮影に拘りを持つ監督の感性は、本作でも見事に炸裂。森を駆け抜ける二人、湖に飛び込み、全裸で口づけを交わす二人、ボートで静かに水面を進む二人、襲い掛かる現実という恐怖から逃避する二人の姿は、やがて幽玄な雰囲気さえ漂わす。観終えた後に、確かな手応えを残すドラマとなっている。

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