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前衛映画黄金コンビダリ&>ブニュエル
L'AGE D'OR〜黄金時代〜

 「アンダルシアの犬」(フランス:1928)を手がけた監督ルイス・ブニュエル。その脚本を共同執筆したサルバドールダリ。映像に関心のある人ならば必ず見ている映画で、シュールレアリスム映画、アヴァンギャルド映画、実験映画の金字塔と呼ばれる傑作ですが、この黄金コンビが再び手を組んで製作されたのが、ご紹介する「L'AGE D'OR」(黄金時代)。1930年に製作されており、「アンダルシアの犬」の2年後となります。
 「アンダルシアの犬」はダリとブニュエルが活動を共にしている時、ダリが「昨日掌を蟻がうごめいている夢を見たんだ」と告げ、ブニュエルも「僕は誰かの眼球を切った夢をみたんだ」と応えたことから創られた作品と言われますが、こちら「黄金時代」もそうした夢をイメージ化したといえる内容で、お二人とも製作前にかなりの悪夢をご覧になったと思われます…。そのくらいシュールかつアナーキーな出来で、個人的には前作と同じくらいの傑作と呼べるのではないかと思います。
 こうした作品は言葉で解説するより、作品をご覧になったほうが早いので、まず映像体験をおススメします。
 といって突き放しているだけでは手抜きですので、シュールレアリスムと呼ばれる、楽しい世界について少しばかりご説明をさせてください。今作品を楽しむ上で少しばかりでも役に立てばと思います。

 まずはシューレアリスム運動の前に1910代にヨーロッパのいくつかの地方やニューヨークなどで同時多発的かつ相互影響を受けながら発生した新しい芸術運動「ダダイスム」がありましたが、個人的にはより過激傾向のあったこちらの運動に興味を持たされました。このダダイスムがシュールレアリスムにつながっていくわけですが、芸術運動の名称で違う呼び方をされていても共通の感性が根底にはあって「否定」「攻撃」「破壊」、概成の秩序や常識に反抗心を抱き、価値観を破する、これまで注目されていたのは精神分析の分野としてのみであった「無意識」の世界に重点を置いているなどがあります。「ダダ」という名称はトリスタンツァラが適当に辞典から拾ってつけたともいわれているそうですが「適当」というところがいかにもダダですね。意識を排除した、無意識あるいは偶然を反映させるという基本理念に沿っていて。ちなみにあのウルトラマンに登場するダダもダダイスムのダダです。意識を排除して運動あるいは芸術活動を行うという一見矛盾してますが興味深い方法(自動筆記、コラージュなど)をどのように行うか?そうした問いへの答えの一例がこの「黄金時代」であるのです。当時映画館入り口に展示していたシュールレアリスム絵画が破壊され爆弾まで投げられる始末で、すかさず上映禁止となってしまったというエピソードもあるそうです。
 ダダイスムに立脚した芸術は映画は写真、絵画、オブジェ、文学など多岐に渡ります。そしてダダはシュールレアリスム運動へと引き継がれていきますが同運動の活動家、(このあたりのアーチストは芸術家と呼ぶよりこのほうがぴったりすると思う)で有名なのは写真家はマンレイ、文学はアンドレ・ブルトン、アントナン・アルトー、絵画はサルバドール・ダリをはじめマックス・エルンスト(この「黄金時代」に出演!)などなど…枚挙にいとまがありません。この時代の反秩序的な活動、とくに西欧諸国での反キリスト教的な運動や表現は風当たりも強かったはずで、さらにアトリエでおとなしく筆を握る画家という態度ではなく、街に政治に、人々によりアグレッシブに仕掛けていくという意味でも、非常に先鋭化された政治的活動家というイメージを強く受けます。
 さてそうした潮流の流れの中で生み出された作品のひとつである「黄金時代」ですが、「アンダルシア〜」と違いトータル63分の中編作品です。しかも音声入り。DVDには英語の字幕まで入っている。「アンダルシア〜」を見ていてこちらはまだ、という人はぜひご鑑賞ください。
 ストーリーはありますが、やはりシュールレアリスムの映画とあってイメージ的なショットが随所にちりばめられております。狂人(!)が主人公らしく、不可解な行動をして笑わせてくれます。そのほか全編不思議感覚で、いくつかイメージをピックアップすると・・・

・岩場でミサをあげる大司教(ほんの数分後には骸骨と化している
・女に襲い掛かり、見ていた男性に取り押さえられ連行される狂人(あるいは変態)
・女がトイレに腰掛けると突如マグマの映像が入り、水洗便所の轟音とシンクロされる
・居間にはなぜかウシがいてベットでくつろいでいる…それをみて女は「シッシッ」と追い払う(でも驚きがあまりなく猫がいた、くらいのリアクションなのが面白い。ウシは鈴をガラガラ鳴らしながら大人しく出て行く
・盲目の方をいきなりトビ蹴りする狂人(ヒデー!)
・かわいらしい愛玩犬が「ワンワン」なくとまたまた狂人が近寄り、子犬を思い切り蹴り上げる(ヒデー!)
・若い猟銃を持った男に少年が寄って悪ふざけをしたらいきなり男がキレて逃げ回る男の子を撃ち殺してしまう!(ヒドすぎる!)
・パーティーの席で飲み物を親切に運んで来てくれた熟年女性がうっかり狂人(なんでいるんだ?)に少しだけこぼしてしまう、すると狂人が豹変!いきなり張り手でひっぱたく!

 こうして書いているとまるでコメディーだ…。でも確かに笑いって異常な事態に対して自分を平静に保つ機能があるけど、この不条理劇にもそうした笑いを引き起こす作用があることから喜劇の要素が入っていることは間違いないでしょう。というより喜劇は不条理劇の一種といったほうがいいか?この作品も変に隠喩とか象徴とか考えずに、笑ってみることがまずは大事ではないでしょうか?
 もうちょっと続けると・・・

・狂人が女と何とかうまくいってめでたくカップルとなるが、指揮者と浮気され怒り心頭!窓から燃え盛る木や大司教、キリン!などを次々と放り投げる

 このあたりでは音楽もスネアドラムの単調なリズムで、一種異様な場面が延々と展開されるのです。
 ここまで書いて分かるように言葉で書いてもいかにその組み合わせがシュールもしくはパンキッシュかというのがお分かりかと思います。まさしくロートレアモンの「手術台の上のこうもり傘とミシンの出会いのように美しい」とも言うべき意外性が手を組んでいるようです。
 異端で時代の先鋭だったダリとブニュエルという強烈な個性のぶつかり合いから生まれた彼等の作品「黄金時代」をぜひご覧下さい。(島野モンド) 



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