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勝ち抜きエレキギター作戦

 決して名作とは言いませんが心に残る映画というのものがあります。私が高校3年生の時に出会った「クロスロード」という映画がまさにそれです。ギターキッズの友達の桜井君(実名)に教えてもらったこの映画で強烈に印象に残っているシーン(というかこのシーンしかロクに覚えていない):主演の少年と天下の超絶変態ギタリスト〜スティーヴ・ヴァイとのギターバトル・シーンに魅せられて早18年・・・。当時楽器を少しかじっていたロック少年だった私は取り付かれるようにこの映画というかギターバトルシーンのみ繰り返し観ていた記憶があります。ただその後、時は流れ「クロスロード」熱も風化し存在すらも忘れていました。そんな折、ふと見覚えのある少年と黒人のおっさんのDVDジャケット(とても当店のカラーには合わないような)を新作の輸入盤として目にした途端ターイム・スリップ!ほろ苦くはない青春時代がフラッシュバックしました。「あー、あのギターバトルの曲コピーしようとしてたなー・・・」とか、「桜井は今何してんだろうなぁ・・・」とかとてつもなく郷愁の念にかられ、たまらず購入し、拝見したのでした。

 ギター・バトルシーンだけクローズ・アップされ、キワもの扱いされている今作ですが、ちゃんと最初っから観てみると、ブルースの寓話”に挑んだ青春音楽映画としてなかなかの出来なのではと思いました。ブルースとは何なのか?の答えがこの映画に!とまでは言いませんが(今は何をやっているのやら)主演のラルフ・マッチオの好演と監督の音楽への愛情が感じられ全編楽しめました。音楽学校でクラシック・ギターを専攻しながら実はブルース・ギターを愛する少年ユージン(ラルフ・マッチオ)は、将来を期待される優等生だったが、伝説のブルース・ギタリスト:ロバート・ジョンソンの残した幻の1曲を知る老人、ウィリー・ブラウン(ジョー・セネカ)に出会い、ブルース・ギター追求の道に生きる決心をする。ウィリーは過去に殺人事件を起こして、今では刑務所病院で暮らしているが、ある目的を果たす為に、「俺をここから出してくれれば、あの幻の1曲を教えてやる」とユージンに持ち掛ける。ユージンはウィリーを脱走させ、二人はヒッチ・ハイクで、ミシシッピのデルタ地帯にある伝説の地“クロスロード”を目指して旅をする。ロバート・ジョンソンが悪魔に魂を売ってギターテクを身に付けたっていう所謂“クロスロード伝説”がなかなかそそります。ブルースの話しながら何だかROCK的でカッコイイじゃぁないですか?ちなみにジョンソンはこの契約で寿命を8年縮めたと言われており、「Crossroad Blues」の録音の2年後に悪魔の契約は履行されました。ジョンソンは、酒場の経営者の妻に手を出し、激怒した経営者から毒殺され、わずか27歳でこの世を去ったという・・・(死に方にはいろんな説があるらしいです)。道中頑固でクセのあるウィリーとユージンのやりとりが面白いです。ウィリーはいい年こいて色好みだが、流れ者ブルーズマンらしく、いちいちセリフがイカしてます。ユージンはウィリーに利用されながらも、行きずりの家出少女との出会い、別れ、飛び込みのセッションや様々なトラブルを体験し、テクニックや知識ではなく、魂のブルースを学んでいく・・・。というのが話の大筋。
 そしていよいよハイライト!ウィリー・ブラウンがロバート・ジョンソン同様に悪魔に魂を売った契約を破棄してもらう為にユージンはヴァイとバトルんですが、ジィさん、ロバート・ジョンソンが27歳で死んだのを考えれば、80歳まで生きてられたんだから今さらイイじゃん!と言いたくなります。それにしてもスティーヴ・ヴァイの強烈な存在感たるや際立っております。悪のギタリスト:ジャック・バトラーの名に相応しい!まさにはまり役です。当時はデイヴ・リー・ロス・バンドにいた頃でしょうか、イメージそのままの超絶プレイを見せてくれます。体をクネクネさせながらトリッキーでアーミングを多用したド派手なプレイシーンは前時代的ではありますが強烈なインパクトがあります。余談ですが、私が生で見たロック系(まあほとんどメタル系かな・・・)のギタリストの中ではその超絶なテクニック、彼にしか出せない音、怪しくもゴージャスなたたずまいとどれをとってもナンバーワンです(個人的にそれほどファンという訳ではないのにもかかわらず)。ちなみに観に行ったのは今となってはレアなホワイトスネイク在籍時です。 ヴァイの超絶プレイに圧倒されたユージンは本来好きではない音楽学校で習ったクラッシックの曲で応戦。この場面冷めた目で見ると「えっ!」という展開です。この映画をブルースの精神性とは?なーんて観点で観ている人にとってはブルース・ギターを極める旅をしていながら、最後にクラシック(しかもギンギンのメタルサウンド)とはいかがなもんか?又はこの作品を台無しにしてるとさえ感じているらしいです。普通に考えればユージンがテクニックではかなわないと見るや、この旅で学んで来たブルースの真髄をここぞとばかり発揮して渋ーいブルース・ギターで、観客を感動させて勝つ・・・と言うようなストーリー展開を決めつけてしまいがちですが、そうはならないのがこの映画のイイところです。このクラッシックの曲がキャッチーでいかにも!って感じでよろしい(パガニーニのバイオリン協奏曲“24の幻想曲5番”という曲らしい)!じっと見つめるヴァイ、同じフレーズを弾こうとするが、途中でつっかえてしまい動揺、狼狽するヴァイの演技は迫真というかクサくて最高。ヴァイが負けを認めて自ら去って行った後、新しいチャンピオン誕生のお祝いなんでしょうか?バックバンドがカウントも取らずに、演奏を始めます。そしてウィリーのハープも加わりご機嫌なジャムセッションの始まりだ。いやー、爽快爽快のハッピーエンドです(どこがじゃいっ!)。ロバート・ジョンソンの幻の30曲目の話は何処へ・・・(途中ウィリーが幻の曲なんて存在しない、おまえ(ユージン)が書け!なーんて言う始末・・・)。つっこみどころ満載の今作ですが、かつてのギターキッズ、80年代メタルファンはこのギターバトルシーンを観るだけの為に買っても後悔しないと思います。今やギターキッズやギターバトルというキーワード自体死語となっているので、まさにメタルバブルだった時代を象徴しているシーンとも言えるでしょう。このシーンだけで少年と老人の心温まる?交流を描いた青春映画だったのが、まるでアクションヒーローものに!・・・爽快感を感じつつ、ブルージーな調べにのって二人の旅は続く・・・というとてもイイ感じの余韻に浸れることでしょう。

 最後にこの映画で唯一誰もが賞賛するのがBGMでしょう。当時ブルースなんて全く興味なかったので何とも感じませんでしたが、今回あらためて観て全編で流れるライ・クーダーのスライドギターサウンドに惚れてしまいました。監督のウォルター・ヒルは多くの作品で、ライ・クーダーの音楽を採用してるとのことです。ギタープレイの吹き替えはライ・クーダーとスティーヴ・ヴァイなのでしょうが、ラルフ・マッチオの指の動きを見てるとそこそこ弾けるんじゃないの?と思えるぐらい らしく見えます。相当練習したんでしょうね。

 ちなみにこちらはアメリカ盤DVDながら国内のプレーヤーでも観れますし、日本語字幕まで付いた嬉しい仕様で当店にて密かに発売中です。かつてギターキッズだった方、80年代メタルファン、さらにジャンルを問わず音楽を愛する方、是非この機会にお求め下さい。きっと何かを感じることができるでしょう。懐かしの「ベスト・キッド」の予告編も入ってます(サヴァイバーの主題歌が個人的にナイス・・・笑)。

by SF



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