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ダーククリスタルの世界

 公開から十数年を経てなお熱く語り継がれ、新しいファンを常に獲得し続ける映画。これはカルトムービーの定義のひとつでしょう。90年代の作品では、潜在能力は充分でもちょっとカルトの名を冠するには、語り継がれる時間が不足気味。だから必然的にカルトムービーとは80年代以前の作品になると勝手に思っています。80年代メジャー系カルトの筆頭はやはり「ブレードランナー」。80年代後半から90年代中盤まではとにかくあちこちで何かにつけ言及されてきました。それをうんざりしながら眺めていたリアルタイム派から、デレクターズカット版で初体験した若い世代まで、とにかく多くの支持者を持ち、時代を超えた映画であることは間違えないでしょう。さて、「ブレラン」がカルトたりえた要素のひとつに、その凝りまくった世界観の魅力があります。シド・ミードの斬新かつリアリティのあるデザイン、それを具現化したダグラス・トランブルの技術、そしてそれを見事に演出し最大限の魅力を引き出したリドリー・スコットの演出力。こうして出来た2019年のLAは、一見しただけでは到底計り知れない情報量に溢れており、それゆえ何度でも見てしまう魔力を持っています。画面に映らない部分まで徹底的に創り込んだからこそ出せる異世界の魅力・・・。前置きがながくなりましたが、ここでのお題は80年代のメジャー系カルトとして「ブレラン」と双璧を成す映画「ダークリ」ことダーククリスタル(1982)です。

 「ブレラン」はその後、多くの亜流や模倣を生みながら、どれひとつとしてオリジナルを超えられなかった(技術的には遥かに進歩しているにもかかわらず)という点で奇跡的ですが、「ダークリ」も唯一無二。オンリーワンの魅力を湛えながら時代を超えています。そもそも「ダークリ」の奇跡的な世界にチャレンジしようというフォロワーがほとんどいないというのがその偉業を物語っています。

 まずはストーリーの説明を。時は遥か昔。黒水晶(ダーククリスタル)が世界の秩序を保っていました。ある時、黒水晶の一部が欠けたのをきっかけに世界は乱れ出し、邪悪で醜いスケクシス族が支配してしまいました。「水晶が元に戻る時、世界はゲルフリング族が収める」。この予言を恐れるスケクシス族はゲルフリング族を虐殺。ゲルフリング族の生き残りである少年ジェンは、同じく生き残りである少女キーラとともに水晶復元のクエストへと旅立つ・・・。いたって単純ですってぇ?その通り。しかも黒水晶が欠けて云々かんぬんは映画の冒頭に言葉で語られるだけ。実際はジェンの水晶復元の旅。それだけなんです。しかもあっけなく水晶の欠片を手に入れるし・・・。
 そもそも映画のストーリーは、一回見てしまえば分かってしまうのですから、それでもまた観たいと思わせる、カルトたりえる映画というのは、ストーリー展開だけではなくもっと観客を魅了する何かを持っているものだと思うのですが。「ダークリ」はまさにその典型ではないでしょうか?「ブレラン」の世界が観るものを圧倒し、何度でも見て語り倒したいという衝動に駆り立てる魔力を持っているのと同様のことが「ダークリ」にも言えるわけです。では「ダークリ」の世界とは・・・。
 本作を未見でも全く知らないよという方はあまりいないと思いますが、それでも声を大にして言いましょう。なんと「ダークリ」の登場人物はすべてパペットであり、人間は一切出てこないのですよぉ〜!しかしジェンやキーラ、その他のキャラクターたちはダーククリスタルという映画の世界では完全に生命を持っています!人格も感情も!CGは素晴らしい技術ですが、キャラクターにこれほどまでの生命力を注ぎ込むのはおそらく、いや絶対無理でしょう、少なくとも今現在では。映画開始数分後には、何の違和感も無いままダークリ・ワールドに入り込み、奇妙な容姿のキャラクターが当たり前のように登場する異世界を、当たり前のように受け止めている自分に気づきます。

 この魅力的なキャラクター達を創造したのは英国人画家、ブライアン・フロウド。古来より語り継がれる妖精の世界を独特の繊細なタッチで描く彼に、「ダーククリスタル」プロジェクトへの参加はうってつけ。とにかく製作に参加してからは寝ても覚めてもスケッチを描きまくったといわれていますが、そのすばらしい仕事の一部は最近再販された画集「The World of the "Dark Crystal"」で見ることが出来ます。これを見れば映画を一見しただけではとても把握できないディテールまで完璧にデザインされていることが分かるでしょう。たとえば、邪悪なスケクシスたちもそれぞれ名前と役割、個性を持っており、それに合わせて微妙にデザインが異なっています。そしてこのこだわりがゲルフリングやスケクシスを筆頭とするキャラクターのリアリティに説得力を持たせているのです。

 さて、ブライアン・フロウドの手による素晴らしいキャラクター達は、ジム・ヘンソン工房が誇る世界最高峰の技術によりこの現実世界に3Dの実態として産み落とされました。その精巧なつくりは、パペットという概念を超越するものです。そして彼らに生命を吹き込んだのが、本作の監督であるジム・ヘンソン、フランク・オズを筆頭とする超一流の人形操演者たち。これまでにない斬新かつ精巧なパペットの操作は、彼らにとってとてつもないチャレンジであり撮影は困難を極めたそうです。しかしその成果が見事に現れていることはこの映画を見た人ならだれもが納得でしょう。こうして、類まれなダーククリスタルの世界が生まれ、忘れがたい名場面の数々も生まれました。ジェンとキーラが小船で川をゆっくり下っていく最中、ジェンの笛の音に併せてキーラが歌うシーンには、言葉では言い尽くせないほどの初々しい感動を味わったものです。

 ところでこの映画は、そのグレイトなビジュアル面とともに、音楽もまた忘れがたいものになっています。「暴走機関車」「エンゼルハート」「ラスト・オブ・モヒカン」「リーグ・オブ・レジェンド/時空を超えた戦い」等、数多くの作品のサントラを手がけ、今や大御所であるトレバー・ジョーンズの初期代表作として決してはずせない作品です。ちなみにこのサウンドトラックCDは、先ごろ限定版2枚組みで復活!この限定版でお目見えした劇中全音楽収録の2枚目が目玉となっており、世界中のファンが絶叫しました!
 その他、トレーディングカードやジグソーパズルなど当時の貴重なものから、比較的最近発売された12インチのフィギアまで、世界を見渡せばマニア泣かせの関連商品が数多くあるあたり、さすが80年代を代表するカルト・ムービーと言えるでしょう!

 

リージョン1/¥8250

 そんなコレクターズアイテムの一つに加えていただきたいのが、このたび米国で発売されたコレクターズ・エディションDVDです。一見皮製のような(実際は紙です)重厚なボックスにまず嬉くなってしまいますが内容も負けておりません。映像・音声ともにリマスターでますますハッキリクッキリ。国内版DVDにも収録されていましたが、驚異のダークリ・ワールド創造の裏側を覗くことが出来る見ごたえ充分なメイキングドキュメンタリーなど、これまでのDVDに収録されていた特典はもちろんフォロー。コレクターズ・エディションだけに新たにストーリーボードやキャラクターのイラスト集の映像特典が追加されました。さらに封入特典として、製作当時ジム・ヘンソンがコンセプトやストーリー等を書きなぐったノートのミニチュア・レプリカ、限定ナンバー入り35mmセニタイプが付いてきます。

 日本国内でも非常に熱心なファンの方々が多く、そうした人たちによる素晴らしく気合の入ったホームページなどを拝見するにつけ、いかにこの作品が愛されているかを思い知る次第です。自分もそんな一人としてこの先もずっとこの映画を愛し続けることでしょう。(涌井)


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