元女優のヴェロニカは、両乳房切除手術後の療養のため、看護師のデジとともにスコットランドのハイランド地方にやってきた。そこは、かつて魔女狩りが行われた土地。火あぶりにされた女性たちが灰となって堆積する、美しくも呪われた森だった。数百年を経てなお、女性たちの無念が怨念となって渦巻く環境の中、ヴェロニカは子役時代に有名監督から受けた虐待、ハラスメントの忌まわしい記憶と対峙しやがて・・・。
ダリオ・アルジェント製作の本作は、映画業界で権力ある立場の者から受けたトラウマに対し、超自然的ウーマンパワーとともに立ち向かうという、「#Me Too」運動時代に撮られるべくして撮られたホラー映画です。監督は、彫刻や写真、インスタレーションなどで多彩な活動をする女性芸術家シャーロット・コルバート。生まれながらの魔術師と呼ばれる程の才能に恵まれた彼女の初長編作品。映画自体が説明的にならず寡黙な分、圧巻のヴィジュアルが饒舌に語っている傑作をいきなりものにしており、早くも次回作が楽しみな逸材の誕生です。
『シャイニング』や『ノスタルジア』を彷彿させる映像、さりげないノイズの使い方も効果的な音響、アルジェントの魔女もの系映画の香りが漂うスコア。そしてベテラン俳優陣の演技が、本作の格調を数段高いものに引き上げています。主演のヴェロニカを演じるのは『ゴースト・ストーリー』『炎のランナー』のアリス・クリーグ。大ベテランである彼女の佇まいが役柄に真実味をもたらしており、厭世的で殻に閉じこもるヴェロニカが、看護師デジと世代も人種も超えて徐々に心を通わせる様子が静かな感動を呼びます。クソ野郎な映画監督役があまりにもハマっているマルコム・マクダウェルを筆頭に、ルパート・エヴェレットら脇を固める俳優も印象的。出てくる男が総じてクズなのは、本作の監督が女性でなければならなかったことと共に、避けられないポイントだったかと思います。
エンドクレジットにかかる曲はエコー&ザ・バニーメンの代表曲「キリング・ムーン」のカバー。『ドニー・ダーコ』でも使われた本家に対し、ここでは女性ボーカルによるカバーバージョンを採用し、独特な余韻を残すことに成功しております。映画のタイトルからも分かりますが、本作は徹頭徹尾「女性」映画であり、主人公が忌まわしい過去と、それに囚われ続ける自身の殻を打破するまでの物語。その始まりとなったのが、女性のシンボル=乳房の喪失であるところにも、監督の意図する何かが含まれている気がしてなりません。
最後に、本作に対する信頼感が溢れるマルコム・マクダウェルさんの言葉を引用します。「映像が並外れてユニークなんだ。撮影を終えて大満足な気分だよ。マジでハッピーだ。私はめったなことじゃこんな風には言わないんだ、本当に。でもね、今回ばかりは言わせてもらうよ」
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