東京爆音伝説
精神が肉体の許容量を越えた時 肉体は卓越した運動神経を展開する

 

福居ショウジン監督率いる映像制作集団「ホネ工房」の 「ピノキオ√964」が登場した90年代初頭、自主映画をかじった若者らは、嫉妬の入り混じった羨望の眼差しを一方的に送りながら、余りに異様な内容と凄まじい熱量を前にして、ただただ平伏すことしか出来なかった。

女性用性玩具ダッチハズバンドであるピノキオと、記憶喪失の女ヒミコのハードコア過ぎる関係を、ゲロとノイズにまみれた初期衝動で描く本作は、それほど圧倒的だった。池袋辺りのゲリラ撮影パートは、個人が今ほど気軽に映像を撮影できない当時にあって、キャメラを回す覚悟の強さ(=映像化への欲望の深さ)ゆえに実現できた緊張感の漲る映像ではないか。ゲリラ以外も、セットからロケ地まで監督の徹底した拘 りによって突出したパワーを持ち、それらが混然一体となり、危うい均衡がギリギリ保たれている。

本作は、中野武蔵野ホールで元祖「爆音上映」ともいえるスタイルで公開され、その伝説的上映を体験した人たちの映画人生に、決して忘れられない爪痕を残した。常軌を逸した作り込みによる効果音は、劇場の爆音でこそ最大の効果を発揮するように設計されており「映画もライブであるべきだ」と主張する福居ショウジン監督の意向を考えた場合、ソフト化された本作を自宅で鑑賞するのは、残念ながら「ピノキオ√964」の全容を体験した事にはならないかも知れない。だが、この度16mmカメラネガからの4KスキャンでBlu-ray化されたことで、ちょっとあり得ないくらい鮮明になった衝撃的映像は、本作の核心へと深く迫ることを許してくれる、そんな商品だと思う。ならばせめて、自宅のテレビのボリュームを目いっぱい上げて鑑賞しようではないか!


This Film Should Be Played Loud !


追記:店主の告白(以下、反転させてお読みください)
日頃より本作への愛を語っておりますが、実は91年の公開時、中野武蔵野ホールへは行ってないんです。いや、ずっと注目してはいたのですが。本作の存在を店主に吹き込まれたK君(高校以来、よくつるんで遊んだ映画仲間の友人)が、一足先に観に行ったんです。そしたら凄まじい音圧に、殺されそうになりながら、逃げるように映画館を後にしたと言うではないですか。しかも、その鑑賞体験があまりにも衝撃的で、思い出すのも辛いらしく、鑑賞前に買ったバッヂとパンフ(左画像)を、頼むから貰ってくれと言わんばかりに店主に託して去ってゆくのでした。映画やライブをそれなりに体験していると自負していた店主でしたが、そんな彼の姿を観たら恐ろしくなってしまい、結局・・・我ながらダメだな、情けないったらありゃしない。
そんな訳で、VHSリリース時が初鑑賞なんですゴメンナサイ。

 


ピノキオ√964
Pinocchio 964
(1991)

 ¥4950



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