ファウンド・フッテージ歴史改変SF

【あらすじ】 
第二次大戦下のイギリス。片田舎にひっそり暮らすトムとマース姉妹は、未来のテレビやラジオを受信出来る機械を発明、亡き母に因んでローラと名付けた。受信実験で初めて映し出されたデヴィッド・ボウイや、2〜30年後の音楽に夢中になった姉妹だが、ローラが映し出すのは明るい未来だけではなかった。ナチスドイツによる大空襲からイギリス国民を守るべく、身元を隠してゲリラ的に警告を発令する姉妹。マスコミから「ポートベローの天使」と呼ばれる彼女らに、やがて英軍情報部が接触、ローラの軍事利用を承諾させる。これによりナチスドイツの電撃戦はことごとく失敗に終わり、素晴らしい戦果がもたらされた。だがある時、ボウイが人気最高潮のはずの73年にチューニングしたところ、そこに映し出されたのは全体主義を巧みに煽るプロパガンダソング(ディヴァイン・コメディのニール・ハノンが手掛けている)だった。現在を変えれば未来も変わるのは理の当然。そしてトムとマース姉妹の人生は改変された歴史の波に翻弄される・・・。

【解説】
ここで観られるのは、妹のマースから、発明家であり未来受信機械ローラに没頭する姉トムへのメッセージとして戦時下に撮影され、2021年に偶然発見されたフィルムである・・・という体裁で始まる本作。いくらでも風呂敷を広げられるストーリーを、敢えてミニマムな視点から描き、非常に興味深く、時に胸を打つ素晴らしい映画となった。ヴィンテージカメラやレンズを駆使し、旧式の16mm現像処理を施したモノクロの映像に、本物のニュースリールもミックスされて、ほとんどフィクションとリアルの区別がつかない程の完成度。上映時間78分という尺も含め比較的こじんまりとしているが、ファウンドフッテージ・スタイルの採用で低予算を巧みにカバー、ここぞというカットが見事に決まっているため戦争映画のスケールを損なっていないのが流石である。SFの体裁を借りたパーソナルなドラマという点からクリス・マルケルの『ラ・ジュテ』を想起する人も多いかと。主人公のキャラクターが、戦時中の姉妹にしてはモダンに過ぎるとしても、それは本作が2022年製作の映画なのだから・・・などと割り切るよりも、ローラを通じて6〜70年代文化の洗礼を受けた結果、と考えれば無理もなく受け入れられるのではないでしょうか。

「この先、いつかまた聴くことがあると思うけど」と前置きしながら姉妹が歌い踊ったキンクス64年のヒット曲「ユー・リアリー・ガット・ミー」が、アンセムとなって戦時中のイギリスを席巻してゆく痛快さ!ローラを発明したトムと、戦時下の日々をカメラで撮影し続けたマース。「ボウイもディランも、ニーナ・シモンもキューブリックもいない未来なんて!」と嘆く二人の人生を見届けてあげて下さい。

【特典】
長編デビューとなる本作でいきなりの才能を見せつけた監督アンドリュー・レッグの短編映画二作収録

・The Girl With The Mechanical Maiden (2012) 
メトロポリスのマリアとSWのC3POを合わせたようなロボットの乳母に育てられた少女。フランケンシュタインを彷彿させる場面も。
・The Unusual Inventions Of Henry Cavendish (2005)
19世紀を舞台にした、発明家と令嬢の恋の物語をタイムトラベルを交えて描く。「Lola」へと引き継がれる要素がこの時点で既に。

その他、コメンタリー、メイキング、マースが劇中で引き語る歌のアウトテイクも収録。

Lola (2022)
 4,400



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