大晦日の夜に、全ての人々が武器を置いてこの映画を観たならば、新年は争いごとのない平和な世界とともに訪れるだろう -L・コルチ-


 
 
1982年の大晦日。ロックの殿堂サターン劇場では、間もなく始まる年越しロックコンサートの準備で大わらわ。68年から劇場を切り盛りしてきた支配人マックスが見守る中、若き舞台監督ニールの指揮で慌ただしく時間が過ぎていた。しかしその背後では悪徳プロモーター、ビバリーが劇場の乗っ取りを目論み、マックスの甥っ子サミーを懐柔。そんな中、ベテランのブルースバンド、ヒッピーそのままに時が止まったサイケバンド、狂人ゲストを伴ったガールズバンドやロック界の頂点に君臨し続ける超大物、世捨て人同然の伝説的ミュージシャンまで、多彩な顔ぶれの出演者が全米各地から続々と集合。満員に膨れ上がった客席は期待で爆発寸前。かくして最高にハッピーでクレイジーな一夜が始まる・・・

 カルトな人気を誇るロックムービー、まさに待望のBlu-ray化となります!日本でもVHS、LDまでは出ていたものの、DVD以降はリリースが無かったため、見たファンの間で熱狂的に語られる一方、未見の方々にとっては、稀にオークションに出品される中古VHSなんかは一瞬で落札される状況のため、中々見ることの叶わなかった本作です。しかも劇場未公開なので、過去記事をあたったとて紹介も少なく、その幻想はむくむくと膨れ上がったことでしょう。そんな状況は海外でも同様で、数年前には、リアルな作りのWEBサイトで、まことしやかにリリースを伝えるフェイクニュースまで登場する始末(そこでは確かARROWからのリリースだったかな)。音楽映画だけに使用される楽曲の権利があまりにも複雑で、仮に企業努力でクリア出来たとして、果たしてそれで利益をもたらすのか?先ず無理だろう。そんな訳で今後もリリースは無いだろう・・・と語られていたので、本作のファンである店主も半ば諦めておりました。

 さて、ここからは店主の昔話ですので、例によってお急ぎの方、興味の無い方はさっさとすっとばして下さい。『ゲット・クレイジー』を初めて観たのは確か19歳の頃。マルコム・マクダウェル氏のファンだった店主は、彼の出演作で見られるものは見て、買えるものは予算の許す範囲で極力買おうと燃えに燃えておりました(予備校通いの身分にも拘わらず)。因みにレンタルビデオ店が乱立し好景気に沸きつつも、マルコムの代表作『時計じかけのオレンジ』でさえ視聴困難だったのが80年代という時代です。名画座は別として、自宅で『時計じかけ〜』を見るには輸入盤に頼るしかなかったわけですが、店主は高校二年の時に1万円で、一部シーン磁気消去済みの輸入ビデオ(VHSではなくβでした)を通販購入した次第。本当はLDが欲しかったのですが、当時はアンダーヘア解禁前。LDはビデオと違って該当箇所を磁気消去出来ないため日本国内への持ち込みは禁止されておりました。海外旅行でアメリカに行ってこのLDを現地購入、果敢に帰国するも・・・という話はベテランLDコレクターの定番ネタとなっているほどです。閑話休題。そのようにマルコム君の映画を夢中で漁っていた時に『if もしも‥‥』(『オー!ラッキーマン』は『時計じかけ〜』同様未ソフト化)や『パラドックス・ワールド』とともに国内版LDで購入したのが『ゲット・クレイジー』(なぜ傑作『スカイエース』を買わなかったのかは我ながら謎)でした。マルコム演じるロック界の大物レジー・ワンカー、もうこれが最高でした。撮影当時、かなり深刻なドラッグ中毒でリハビリを受けていたはずのマルコム氏ですが、劇中ではドラッグやり放題。どんな心境で撮影に臨んだのか気が気じゃないですが、ほとんど脚本を読まずに現場入りしたそうで、例の突如喋り出した「息子」との会話のシーンなど、共演俳優に「あのシーン、一体どうやって演じるつもり?」と聞かれた時に初めて知って仰天したとか。店主が個人的に好きなマルコム絡みのシーンはと言いますと、本作の前に『ブルーサンダー』で共演したダニエル・スターン相手に『ブルーサンダー』におけるコクラン大佐の決めセリフ「Catch ya later(んじゃな)」をかましてくれるシーン。ファンは感動で漏らしますよ・・・。

 マルコム氏のことばかり書いてしまいましたが、こちら全ての瞬間、あらゆる要素が素晴らしい奇跡的な映画ですのでネタには事欠かないのです。例えばマルコムのバックバンドのドラマーはドアーズのジョン・デンズモアが演じておりますが、ドラムスティックの代わりに七面鳥の脚(この部分をドラムスティックと呼ぶことを教えて頂き、このシーンのナンセンスギャグを理解しました)で超高速バカプレイを披露。新体操ばりの前方回転を決めながら登場する女性ボーカリスト、ナダ様のカッコよさ!彼女が手綱を握るピギー(『ストリート・オブ・ファイヤー』でお馴染みリー・ヴィング)の狂人パフォーマンス。そのカリスマ性が逆にバカバカしさを引き立てる吟遊詩人ルー・リード等など、とてもここには書ききれない、あるいは店主が知らないマニアックなネタ満載!ミュージシャン役以外でも、クールで無機質、赤く光る眼が印象的な「薬屋さん」エレクトリック・ラリーなんか、最高なキャラですね。そして祭りが終わった後に漂うちょっとした寂しさまでをも描く完璧すぎるエンドクレジット!

 監督は、本作の三年ほど前にすでに傑作青春ロック映画『ロックンロール・ハイスクール』をモノにしていたアラン・アーカッシュ。ロボットの逃避行をほのぼの描くファンタジーSF『ハートビープス/恋するロボットたち』を挟んで、再びロックを題材とし、よりアナーキーでクレイジーな魅力に満ち溢れた、まさに奇跡を実現しました。スパークスのゴキゲンな主題歌や、ロッド・スチュワートがモデルというがミック・ジャガー味も入っているマルコム・マクダウェルの「HOT SHOT」など、聴きごたえ満点のサントラが未CD化という事実は誠に無念。こちら『悪魔のいけにえ2』と並ぶ80年代未CD化名盤サントラの筆頭格だと思っております。なお、今回のBlu-rayですが本編はアーカッシュ監督が承認した新規2Kマスターを使用。マルコム・マクダウェル、ダニエル・スターンらも登場し本作の魅力に迫る76分のドキュメンタリー収録!ミュージックビデオのお蔵出しは、な、な、なんと2021年のナダバンドのリユニオン映像もありでファン感涙間違いなしの仕様です。


ゲット・クレイジー
Get Crazy (1983)

 ¥4950




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