遠い未来のどこかの惑星。荒廃した砂漠の大地に二人の兄弟が舞い降りた。
彼らの目的は「ディビニティ」と呼ばれる不老不死の血清の製造・流通により、著しく出生率が低下し崩れてしまった惑星の均衡を是正すること。亡き父から血清の研究を受け継ぎ、実用化のためにモラルをかなぐり捨てて製造・販売を行うジャクソン(スティーヴン・ドーフ)。彼を葬るべく邸宅に侵入した兄弟は、セックスに夢中のジャクソンを急襲。彼を縛り上げると、ディビニティの過剰投与を始める。翌日はジャクソンの誕生日。何も知らずにやって来たコールガールは、邸宅にいた兄弟が自分を呼んだ客だと勘違いし肉体関係を結ぶ。一方、異次元世界では美人教祖ジヴァ(ベラ・ソーン)率いる女性メンバーだけで構成されたカルト集団が、いまだ血清に汚されていない純粋な肉体を探していた・・・。
類まれなるビジュアルセンスが注目を浴びる俊英エディ・アルカザールが監督、スティーヴン・ソダーバーグが製作を務める本作は、設定こそSFではあるが、安易なジャンル分けを拒絶するような奇妙で魅惑的なフィルムです。現像時の調整が効かない一発勝負の16mm白黒リバーサルフィルムで撮影を敢行。まるでハーブ・リッツのようなフォトグラファーが撮ったモード写真が動き出したかと錯覚を覚える映像に惹きつけられてしまいます。
脚本は無かったそうで、血清開発者のジャクソン役を演じたスティーヴン・ドーフは
ジャンル分け不可能な本作を『エレファントマン』×『時計じかけのオレンジ』と絶賛。エレファントマンは血清のオーバードーズで奇形化した怪物を指すのは容易に想像できるものの、
『時計じかけ〜』は・・・?と思いましたが、どうやら象徴的なラストショットの事らしいです。なるほど、そう言われればグロテスクかつ美しい「生命の樹」をとり上げる映像はどこか似た雰囲気でしょうか。
娯楽性を欠き、作家性という自己満足に終始するアートフィルムなのでは?という危惧も抱きかねない本作ですが、そんな先入観を打ち砕くのがクライマックスの格闘戦。監督自身がメタスコープと名付けた実写とストップモーションの融合で描かれており、他に類を見ない映像が観る者を熱くさせること間違いありません。どこか2D格闘ゲームを思わせるこのシーンは、ゲーム開発者のキャリアを持つアルカザール監督の面目躍如と言えましょう。このように芸術的小品としての座に大人しく収まることを拒む挑戦的な監督のスタイルにも好感が持てます。
こちらの限定版は、本作の内容に相応しく、それ自体がアート作品的なスリップ&アウターケース仕様の4000セット限定。 |